【散文気分】 - 2020/5/24 Sun -

彼の想像以上に。
娘は大将から渡されていた熱々の たこ焼きを次々に口へ運びながら谷川に対応していた。 そんな風に言ってしまうと業務的な印象をもたらし兼ねないのだが、むしろ その方が的確な状況表現ともとれた。 しかし谷川の娘は ただ淡々と美味しいたこ焼きを食べながら、父親と会話を楽しんでいたのに過ぎない。 むしろ彼女はその日、少なくとも普段よりは はしゃいでいたのかもしれない。 そこのところは谷川にも伝わっていた。

飲み交わしながら食べつつ(※本当に娘はパクパクと食べた)二人の話題は尽きなかったが、どちらかと言えば それは少し珍しいことだったのかもしれない。 にもかかわらず、谷川はカウンター横の大きなテレビに映し出されていた坂上忍のことすらも、わざわざ話題にしていた。 谷川の娘は初め あまり関心を示さなかったが、坂上が父親と同じ年齢であることと、飼い犬が人語を喋り主人公(坂上)と通じ合っている、そんな設定で子役時代に売れていたことなどを聞かされるにつけ、意識が徐々に たこ焼きから坂上へスライドしてもいた。(※『ふしぎ犬・トントン』)

そして青年期・初めの坂上は 中卒で東大を目指していて、それを果たしてもいた。 塾を営むとても寛大な親父は菅原文太であり、なんだか彼女のような存在は同級生の有森也実であり、恩師と言うよりは むしろ宿敵に近かったのが北見先生(長塚京三)であったが、坂上の合格発表・会場の場で再会し、『磯田(役名)、オレは今でもお前のコトが好きになれん。 でも、』と、和解していた。 そんなドラマの挿入曲はThe Modsのバラードだった。 (※『中卒・東大一直線 もう高校はいらない!』)

それらは ほんの少しの間だけのことでもあったが、それをキッカケに谷川はトイレを借りた。 狭い店内にある とても狭いトイレだった。 なので戻ると彼は娘に そう教えてもいた。 娘は気さくに『大丈夫』と軽く応えてもいた。

店内は元々喫煙が可能であったが、新型ウィルスの流行に関連した配慮からなのか、数か月前からは禁煙となっていた。 あたかも裏木戸のような、カウンターうしろの戸口から外に出て(※常時なにかを挟んで風を通している)、大将から 『さりげなく吸ってください』と いつも灰皿を渡されそうになるのだった。 そして谷川の方でも いつも、『あ、持ってるから大丈夫です』と それを断り続けてもいた。

娘にひと言伝えてから外へ出ようとすると、娘も谷川に付いて出た。 路地裏のような細い通りにも関わらず、そこそこには人通りのある都合からなのだろうか。 『さりげなく吸ってください』という大将のセリフが谷川の脳裏によみがえって来ていた。 谷川の娘も煙草を吸うがそれらを携帯してはいない。 なので谷川が吸っている物を彼女へ差し出した。 そして娘からのプレゼントは同じ銘柄の煙草ひと箱だった。 それは彼女が現れてすぐ谷川に渡されていた。 笑って受け取りながらも谷川は少し複雑に思っていた。

 『こういう気遣いだって あるんだよな』

娘の前回の誕生日には、いわゆる物品としてのプレゼントを彼は用意していなかった。 もちろん彼なりの都合はあり用意が出来なかったのだが、その当日には娘に対して 真っ先にそのことを伝える都合も生じていた。 それが娘に対してどのように伝わっているのかは谷川には判りようもないことだったが、それらを含めて引き受ける責任のあることだけをただ覚悟していた。 彼の娘はそのことを軽く笑い飛ばして すぐに自分の話を繰り出し始めていた。 それが半年前のことだった。

似たようなケースで谷川の別れた妻は、そんなやり取りから少し時間が経ってから、とても取り乱した調子で谷川に詰め寄ってきたことがあった。 (※厳密には花束程度の用意はあった)

 『なんで今さら そんなことを思い出さなきゃならないんだろう』

苦笑しながら思ったが、それはたぶん親子(母娘)と相対しているからなのだろうと 谷川は適当に解釈してもいた。 そうした種類の適当さ加減が当時の谷川には著しく欠乏していたらしい。 いま谷川の感じている解釈もいいのだが、本当の意味での内実とは そういったことなのだ。 そして、『なんで今さら…』 といった振り返り方などは無用の筈だった。

 《続く…》

23.May.2020 茅ヶ崎市・芹沢(臼久保)地区   うら寂れた農地と竹林沿いの細道にて (※下ると観音堂・跡)

少し早いようにも感じましたが、ちゃんとホタルの発生を待つようにも感じられましてん。

…ホントに入るんかなぁ? (汗

ココいらには白も紫も、ともにありました。
アジサイ同様に? その土壌・成分に依るのだと聞いたことがありまする。

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