【散文気分】 - 2020/5/20 Wed -

そんな5月第3週の通院日と彼の誕生日を控えた前週に、谷川は自分の娘にメールを送っていた。 彼が23歳の時の子なので秋には30歳になる。 彼の嫌いな?言葉を用いて言うならば、いわゆる『アラサー』なのだ。 本人の心境などは知る由もなかったが、彼には実感がなかった。 自分の娘が30歳になるといった そのことに対して。

彼らの誕生日はちょうど半年ばかり離れていた。 そんな誕生日を祝い合う理由をお互いに持ち出しながら、年に2回ほどのペースで落ち合っていた。 多くも少なくも例外的な年はあったが、概ねでそのような接し方をしていたのだし、それは彼の娘が中学に上がる頃から始まり 現在まで続いている。 谷川はそんな娘の気さくな性質についてを幸運に感じ、感謝する思いにも駆られてきたが、この自分の娘ならば【当たり前だ】といった自負のような思いも 少なからずはあったようだ。 娘の幼い頃からの関わり方に関しては、彼なりのこだわりとその手応えのようなものが、どうやら彼なりには備わっているのらしい。

別れた妻の再婚相手とともに今でも一緒に暮らしている、そんな娘と母親の関係についてを彼はあまり好ましくは感じて来なかった。 介入することはなかったが、何度か彼の元へ、何らかの波のような物事が降りかかってきたことはあった。 その度に彼は冷静だったのだが、そんな性質の冷静さは彼らが家族として一緒に暮らしていた時には必ずしも発揮されてはいないようだった。 そうしたことに関してを彼は今でも不甲斐なく振り返ることがあるし、そんな一方では『仕方がなかったこと』としてしか片付けられずにもいるらしい。

『ちょうど休みだからいいよ』 と返事があり、彼は少し拍子抜けしていた。 年明けから新型ウィルス騒ぎの続くこの時世にあり、たとえ通院理由とは言え彼の方から都内へ出向き、そしていつものように落ち合うといった持ちかけに対して、娘が快い返答を『即座に』返してくるなどとは予想していなかった。 煩わしい事態が鎮静化してから… といった類のやり取りを交わしつつ、果たして実現はいつになるのか判らないような、曖昧でかつ お愛想のような約束事を、何となく結んで【終わる】ものと踏まえていた。 それらはまるで予定調和であるかのように、しかし内容としては たそがれた発信として取り扱われていた。

大体いつもと変わらず12時半頃に診察が終わり、ほんの少しだけクリニックの受付嬢たちと談笑して(※古い映画とそのリメイク作品についての話題だった)から院外へ出て、そして大体いつものように。 …本当に いつものように、店頭で赤い大きな提灯のぶら下がる『たこ焼き屋』へ向かっていた。 例外的に真っ直ぐ地元の最寄り駅へ戻ることもあったが、それは歯科医院の予約が取りつけてあったからだった。 歯の隙間に”青海苔”を詰まらせつつ ほんのりと酒臭い、そんな患者を演じるのは さすがに、少しだけ忍びなかったようだ。

1時に改札口で娘を待つ約束だったが、もちろん その店へ娘を呼び出す算段でもあった。 そんなメールは、彼が読みかけの文庫本を店内の書棚から取り出して開き、そして一足先に瓶ビールを傾けつつ 少し落ち着いてから、あたかも 『たったいま思い付きました』 とでも言わんばかりに、ゆっくりと 短い内容で発信されていた。

 《続く…》

14.May.2020 藤沢市・亀井野地区   職場近くの農地端にて

朝の空気が気持ちの良い この頃です。

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