【散文気分】 - 2020/5/18 Mon -

谷川(ヤガワ)は通院のために隔週で都内まで、宿直勤務の明けたままで電車に乗って出向くのが常だ。 初めは月に一度であったが、ある時期を境に月二度となっていた。 それも もはや4年も前のことだ。 今の職に就いてからでも既に3年を過ぎていた。

神奈川県の南部に住まう彼にとって、そうした通院が月に一度から二度になることが 少なからず彼の負担を増してゆくことは明白だったが、そんな【すべて】が彼には納得ずくめでもあったので、さして苦にはならなかった。

谷川の生まれ月は5月だった。 彼はそんな自分の生まれ月の気候をとても好んでいた。 幼い頃の彼にとって連休(※当時は「飛び石」)とは、【彼のため】に用意されているものと錯覚することさえあった。 けれども、そんな風に彼のことをもてはやしていたのは そもそも彼自身ではなく、両親はもとより周囲からのチカラが強く働いていたことは否めない。 彼はそのようにして、きっと何かの都合で もてはやされていたのに過ぎなかったのだ。 自分の誕生日【贔屓】など、所詮はその程度のことなのかもしれないなと 今では考えているらしい。

谷川は今年で53歳になっていた。 もう20年も前のことになるが、それまでは10年にも及ぶ平凡な結婚生活を送っていた。 そんな終盤に妻から提案されて別居生活を始めたのが20年前で、その1年後に離婚していた。 それを持ち出したのは彼の方からだったが、その当時の彼にとって【別れ】とはあまり意味を持たないものだった。 厳密に言えば、それは… 少なくとも当時の彼にとっては、まったく 『感じ取ることの出来ない』 ような、感情と物事でもあった。 にもかかわらず、【そうしなければならないもの】といった使命感のようなものが、代わりにそこへ居座っていた。

そんな風に酷い状況として過去を振り返ることはあっても、現在の彼は後悔のような心境には至っていないようなのだ。 そんな別れに関係していた事柄の【すべて】が彼自身に起因するものとして、どうも納得しているらしい。 実際には、厳密に捉えるのなら決して すべてではないのだが、それでも それでいいらしい。 そして、愛していた自分の家族を【それら】に巻き込んでいたことを今でも心苦しく感じている。

そうとでも捉えなければ、さらっと無表情に言う冗談を好む彼の中に、時折り どこかたそがれた雰囲気の感じられる、そんな理由が またいつものように曖昧となってしまう。

こんな短い説明を添えられるだけであり、これらを聞いた人々が肝心の理由そのものにはたどり着けないであろうことを考えると残念にも思う。 しかし彼は冗談を好む男なのだ。

 《続く…》

1.May.2020 藤沢市・亀井野地区   国道467沿いの麦畑にて

何回か 《続く…》 予定です。 どうぞお付き合いください。

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